著者
楊 中〓 菅原 和夫 伊藤 厳 丸山 純孝 福永 和男
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.102-108, 1987-07-31

待機利用条件下におけるオーチャードグラスの種子登熟歩合と自然落下率の変化および春の刈取りが種子生産に及ぼす影響を検討するため,帯広と川渡において実験を行った.主要な結果は以下のとおりである.1)出穂開始の約70日後に約50%の種子が自然落下し,この時点ではすでに種子の大部分が発芽能力を有していた.したがって,利用の待機期間をこの時期までとしれば,確実に自然落下種子量を確保することができるものと考えられる.2)5月28日から6月10日(出穂開始日)までに帯広で行った刈取り実験では,早い時期の低刈りおよびやや遅い時期の高刈り処理によって,出穂茎の形成がある程度促進され,出穂1週間前までの刈取り処理のほとんどが種子の生産に大きな影響を及ぼさないことが認められた.しかし,出穂の3日前以降の刈取り処理におけるオーチャードグラスの出穂率,種子の千粒重および発芽率は著しく低下した.3)オーチャードグラスの春の刈取りによる地上部除去量と幼穂の被害率との間にS字曲線を示す関係が認められた.地上部除去量が40cm以上になると,幼穂の被害率が急激に増加した.したがって,春の利用量がこれ以下であれば,種子生産に及ぼす影響がほとんどないものと考えられる.4)帯広と川渡のいずれにおいても出穂の10日前までの刈取り処理では,オーチャードグラスの出穂に及ぼす被害はほとんど認められなかった.以上の結果から,オーチャードグラスの春における利用は,適切であれば,種子生産に及ぼす影響がほとんどないことが明らかになった.自然下種による植生回復を効率よく行うための種子量を確保するためには,出穂の10日前から70日後までの休牧期間が必要である.