著者
横田(有田) 恵子(恵子)
雑誌
女性学評論 = Women's Studies Forum
巻号頁・発行日
vol.31, pp.155-170, 2017-03-20

現代日本社会は主として社会保障を持続的に維持する目的で、健康長寿の実現を最重要課題のひとつとしている。「健康日本21」は政府が推進する国家レベルの国民運動で、その目標は国民の健康状態を数値化し、指標に基づいて評価することにある。ヘルシズムの増大はとどまることを知らない。人びとは主体的な選択をしたつもりでも、実際には、健康行動を正しく選択するようにナッジされ、誘導されることが常態化している。その手法はリバタリアン・パターナリズムに依拠しており、私たちの日常の隅々にまでいきわたっている。本論では、このような現状を批判的に検討する場として、「公衆衛生の倫理学」の重要性をまず示し、次いでフェミニスト哲学、特に「ケアの正義論」が公衆衛生的な価値観に対抗可能かを考えるものである。