著者
武田 紀仁
出版者
日本知的資産経営学会
雑誌
日本知的資産経営学会誌 (ISSN:27586936)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.6, pp.54-66, 2020-12-20 (Released:2023-05-01)

本論文は,「情報の内容」を意味するコンテンツについて,コンテンツの概念を法的位置付けや利用形態等の見地から現状に照らして整理するとともに,日本,米国および国際会計基準におけるコンテンツに関する会計ルールを比較検討することによりその相違点を概観した。つづいて,日本のコンテンツ産業における上場企業の有価証券報告書の分析を通じて,コンテンツに適用されている会計慣行の特徴や現状を明らかにした。 コンテンツを情報財として捉えた場合には,コンテンツとソフトウェアは一括りに扱われる傾向にある。この点につき,両者の相違点を利用形態等から検討することにより,会計および税務上,コンテンツとソフトウェアは区別され,別個の経済価値を有するとされる根拠が明らかになった。また,日本ではコンテンツは法的に「知的財産」として位置付 けられていることを確認した。 さらに,有価証券報告書の分析を通じて次の知見を得た。第一に,各企業でコンテンツに適用される会計処理の方法は税務上の取扱いに準じた会計処理が選択される傾向にあり,課税庁の通達レベルに引きずられた会計慣行となっている点である。第二に,当該会計慣行は従来型の物理的実態に着目した会計慣行となっており,コンテンツの知的資産としての経済的実態を反映しているとは言い難い点である。 その理由として,日本においてコンテンツを含めた無形資産に関する明確な会計ルールが未整備である点を指摘し得る。コンテンツの経済的実態を財務情報として適切に開示していくためには,コンテンツを物理的な実態に化体した資産として捉えるのではなく「情報の内容」そのものとして,すなわちコンテンツが本来有しているはずの知的資産の側面にフォーカスして,コンテンツの会計を再検討する必要がある。