著者
喜多川 権士 上村 佳奈 齊藤 哲 内田 孝紀 水永 博己
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.57-66, 2010-12-25

台風0918号は静岡大学上阿多古演習林内の67年生ヒノキ林に,根返りの風害を引き起こした。この林では風害発生以前に,風害リスク評価モデルの構築を目的として風速計の設置と立木引き倒し試験を行っていた。台風0918号による風害イベントにより,1)風害リスクの高い個体の樹木属性を観察とメカニズムモデルの両面から明らかにすること,2)風害を引き起こした実際の風況を記録すること,3)既存の風害リスク評価モデルの妥当性の検証,が可能になった。樹冠面積と胸高直径の比は個体耐風性を示す重要な指標として認められたが,形状比,幹サイズ因子は個体レベルの風害リスクには関係なかった。林冠のすぐ上で風速勾配の著しい増加がみられるなど,風速プロファイルの大きな変化が上空風速(林冠上10mの位置)が7ms^<-1>を超えた時に起きた。GALESを利用して計算した風害被害木の限界風速は,実測最大平均風速の約3倍だった。強風時の風速垂直プロファイルとモデルで仮定した風速プロファイルには大きな乖離があった。これらの結果は,強風時において風害リスク評価モデルに既存の対数則を適用することの問題点を指摘している。しかしながらモデルによって評価された個体の脆弱性は,観察によって明らかになった被害木の属性の傾向と一致した。これらの結果は,GALESの妥当性が樹木属性における相対的風害リスクの評価に留まることを示している。