1 0 0 0 OA 日本産Oculinidae

著者
江口 元起
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.49, no.583, pp.135-142, 1942-04-20

Oculinidae(枇杷柄石科)はMILNE-EDWARDS及James HAIME(1848)により定義された枝状群體を形成する大西洋特有のOculina屬を含む深海珊瑚の1科で, VERRILLにより用ひられた如く, 本來の科よりStyla-sterinidaeを除く六射珊瑚の1群を指す。本科の珊瑚は樹状に分枝せる群體と緻密な石灰質のCoenenchyma(共同骨格)が發逹して, 特に群體下部の捧状部は厚くなりcalice(莢)はその中に埋まるを特徴とする。Eupsammidae珊瑚とは群體の形で似て居るが, 後者は多孔質の共同骨格の發逹せる點で區別する。Galaxiidaeなる現在珊瑚礁上に見る1群Acrhelia及Gala-xea兩屬を含む1科の存在でStylinidaeとの密接なつながりを示す。現在の種は日本沿岸より下記の2屬2種がある。1)Cyathelia axillaris(ELLIS and SOLANDER) 2)Madrepora cf., oculata LINNE 何れも深海性珊瑚で, Cyathelia axillarisは"ふたりびわがらいし"と稱される我國房州沖以南暖海の100尋線附近に普通な種で, 枝の先端では通常1莢絲に同時に2つの新らしい莢を發芽して生長を續ける點と莢口部に直徑を増す朝顏の花に似た莢形に特徴著しい。西は五島沖以南に知られる。日本近海産東北帝大地質學古生物學教室所藏の資料は次の如くである。蒼鷲丸採集品(St, 188, 345, Reg., No., 56566), 千葉縣房丸採集品(外房州 St, 15, Reg., No., 59045), 神奈川縣小港沖(Reg., No., 58960), 相模灣(Reg., No., 8300), 三崎沖, よどみ(Reg., Nos., 43414, 58924), 伊豆, 神子元島(Reg., No., 40994), 和歌山縣瀬戸沖(Reg., No., 50237), 熊本縣天草島, 富岡沖(Reg., Nos., 41940, 58959, 57495, 56560)。MILNE-EDWARDS及HAIME, P., M., DUNCAN, H., N., MOSELEY等も古く日本産を報告した。但し其正確な地點は示さず。蘭印Moluccas沖825尋(MOSELEY, Amboina BEDOT), 印度洋Bengal灣88-444尋(ALCOCK)。Madrepora oculata LINNEはAmphelia oculataとして知らるる細枝状の象牙質珊瑚, 枝端は極めて細く各珊瑚個體は互に枝の兩側に斜交レて交互に發芽増殖する特有の種で,枝の太さ及び莢の太さ, 特にpail小柱の發逹に著しい変異あり, 在來Amphelia, Loohohelia, Sclerohelia等異った屬名の下に取扱はれたことのある種で, VAUGHANによりハワイ産のものがMadrepora kauaiensis VAUGHANとして報告された。但し同一群體に各屬の特徴及び多くの近似種の特徴を認め得る。曾て日本産としてREHBERGにより報告されたAmphehelia adminiscularis REHBERGも明かに本種を指す。日本海沖に多いSclerohelia sp., として矢部教授と筆者の取扱った材料も明らかに本種である。北は津輕海峡附近より日本海岸及び太平洋岸の日本全土に分布する。明らかに深海性珊瑚である。莢は前種よりはるかに小形である。主として蒼鷹丸採集品で下記の諸地點より採集された。584, 595, 610, 637, 188, 271, 462, 三崎沖, 沖ノ山附近に最も普通の種, 太平洋・印度洋・地中海及大西洋を通じて共通種で, 大西洋では特にノルウェー沖よりさへ知られる。福井縣沖には特に本種の豐富な漁礁がある。Madrepora屬の蜜集せる海底には一見造礁硼瑚様の觀を呈する場合があり, 實際新第三期や第四期層中には此の深海珊瑚石灰岩とも稱し得べき物がある。日本の第三紀層及び更新世の海成層中には相當廣く分布せるMadrepora屬の化石が在る。一般に枝端の破片のみで完全な資料は得られない。島根縣・千葉縣・青森縣等の各地よりの資料がある。但し種の鑑定に耐へる資料は少い。珊瑚礁地方に見る唯一の枇杷柄石科はAcrhelia horrescens DANAなる種がある。但し本種はGalaxea屬と共通の特性を多分に備へるため, 筆者は1亞科としてGalaxiidaeとした。パラオ島では岩山灣の或地域に極めて豐富な生育地を觀察した事がある。化石枇杷柄石科の最も古い代表者はEnallhelia屬及びEuhelia屬で, 侏羅紀中部より記録される。其の中最も種數に富み分布廣きはEnallhelia屬で, 歐洲中部侏羅紀及び下部白堊紀層に限り知られて居た。筆者は昭和3年(1928年)陸前大島(宮城縣本吉郡大島村)の下部白堊紀層中の珊瑚類研究中, 同村要害海岸の露頭に凡ど例外なしにEnallhelia屬のみよりなる枝状硼瑚化石帶を注意した。黒色頁岩中に夾在するもので, 表面の風化により凡ど今日の珊瑚礁上に於けるAcrhelia horrescensの群生を思はせる。唯現在の物は軟體部の薄い被覆のため暗褐色を呈せるに反し, 黒色をなして一部海水面に洗はれてゐるのをである。大島産の珊瑚化石中では最も保存の良い物で, 歐洲の各地Neocomian-Urgonianの地層中に知られるEnallhelia rathieri FRO-MENTELと近似し, 又同様の分布で知られるEnallhelia gracilis M., EDW., &H., とも似た點あり, 其の兩性質を夫々一部備へる中間の種としてEnallhelia nipponica EGUCHIとした。本種は其の後未發表のまヽ殘されたが, 多數の資料により薄片として觀察するに何れも骨格の内部が緻密な石灰質に