著者
池原 健二
出版者
生命の起原および進化学会
雑誌
Viva Origino (ISSN:09104003)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.62-68, 2012 (Released:2021-12-29)
参考文献数
19

生命の起原を解明するために必要なことは、生命が生きる上で最も重要な遺伝子や遺伝情報を翻訳する際に使用される遺伝暗号、そして、タンパク質の三つの要素がどのようにして形成されたのかを説明することであろう。これまでも、宇宙起原説や熱水噴出孔起原説、がらくたワールド仮説、そして、RNAワールド仮説などが生命の起原を説明する考えとして提出されてきた。しかし、そのいずれもが、遺伝子や遺伝暗号、そして、タンパク質がどのようにして形成されてきたのかを説明していない。いや、説明できない考えとなっている。それに対して、私が提唱している[GADV]-タンパク質ワールド仮説(略して、GADV仮説)は、遺伝子、遺伝暗号、そして、タンパク質の形成過程を示しながら、自己矛盾なく生命の起原を説明できる可能性の大きな考えとなっている。本総説では、GADV仮説の要点と長所、遺伝子や遺伝暗号、そして、タンパク質の形成過程、および、GADV仮説をより確かなものとするにはどのような実験的証拠が必要なのかなどについて解説する。
著者
池原 健二
出版者
生命の起原および進化学会
雑誌
Viva origino (ISSN:09104003)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.47-51, 2010-03-01
参考文献数
16

RNAが遺伝的機能と触媒機能を同時に持ち得ることを主な根拠として,RNAワールド仮説が1986年にW.Gilbertによって提案された.彼は,生命はRNAの自己複製によって形成されたRNAワールドから生まれたと考えたのだ.そしてこの考えが,現時点では生命の起原を説明するための主な考えとなっている.しかし,この仮説はヌクレオチドやRNAを無生物的に生成することが困難であるなど多くの問題を抱えている.それに対して,私たちは生命はGly[G],Ala[A],Asp[D]そして,Val[V]の4種のアミノ酸からなるタンパク質で構成された[GADV]-タンパク質ワールドから生まれたとの[GADV]-タンパク質ワールド仮説,略して,GADV仮説を提案している.一般に,既存の考えとは大きく異なる考えを新たに生み出すためには,新しい概念の導入が必要である.私たちの主張する生命の起原の提案にとっては,タンパク質のデータ解析から得られたタンパク質の0次構造,即ち,高い確率で水溶性で球状のタンパク質をランダム重合によって合成できる特異なアミノ酸組成という新しい概念の導入が重要なポイントとなった.即ち,遺伝的機能の存在しない条件下,言い換えれば,最初の遺伝子が形成される以前であっても,水溶性で球状の[GADV]-タンパク質を[GADV]-アミノ酸のランダム重合によって高い確率で生成できるという一つのタンパク質の0次構造に気づいたことが生命の起原に関する新たな概念を生み出したのである.本論文ではタンパク質の0次構造を中心に記載する一方で,私達の主張するGADV仮説の可能性も議論したい.