著者
沖野 雄一郎
巻号頁・発行日
2014-03-25

う蝕予防に使用されるフッ化物はその毒性が問題とされるが、急性毒性の機構に関しては不明な点が多い。そこで、動物細胞に普遍的に存在して細胞機構の調節に関与するNa,K-ATPaseに対するフッ素(F)の作用を検討した。材料はラット脳由来精製Na,K-ATPaseを用い、各種条件下でのATPase活性とリン酸化反応中間体(EP)量を測定し、Fの作用を調べた。①FはNa,K-ATPase活性とその部分反応であるNa-ATPase活性とK-pNPPase活性を濃度依存的に阻害した。アルミニウム(Al)がFと共存するとFによる阻害を増強させたが、作用は100 μMで飽和した。②F濃度を希釈するとNa,K-ATPase活性の一部は可逆的に回復したが、Alが共存すると完全に不可逆的となった。またこのAlの作用にはNa,K-ATPase活性に不可欠なマグネシウムが必要だったが、他の2価金属であるカルシウムあるいはマンガンも同様の作用を示した。③EP形成量もF濃度に依存して減少し、Alが共存するとEP形成抑制に必要なF濃度を低下するとともにEP量も減少させた。しかし、活性が完全に抑制されるF濃度でも50%以上のEPが残存した。④以上のAlによる作用はAlのキレート作用を示すdeferoxamineによって低下した。以上の結果は 、①F は 濃 度 依 存 的 にNa,K-ATPase活性とEP形成を阻害する、②AlはNa,K-ATPaseのFに対する親和性を増大させる、③Na,K-ATPase活性のFによる阻害にはアルミニウムの関与しない可逆的阻害とアルミニウムの関与する不可逆的な阻害がある、④不可逆的な阻害にはフッ素とアルミニウムの共存と2価金属イオンの存在が必須である、⑤存在する半分のサブユニットしかリン酸化されず、半分はリン酸化されないhalf of the site reactivityの存在、が示唆された。