著者
河村 和弘
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.81-86, 2023-06-14 (Released:2023-06-14)
参考文献数
6

背景・目的 日本には子宝に恵まれるという、いわゆる「子宝の湯」と称される温泉がある。しかし、「子宝の湯」の不妊症に対する効用の科学的な研究報告はない。本研究では「子宝の湯」の効用について、特異的な温熱作用による血行促進効果に基づく卵巣機能改善の可能性を、代表的な「子宝の湯」を用いて動物試験にて検証した。方法 「子宝の湯」の候補としてCa/Na硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物温泉(Gの湯)、子宝の効用のない中性低張性冷鉱泉(Pの湯)を使用した。メスマウスに抗癌剤(ブスルファンとシクロフォスファミドの混合液)を皮下投与し、その4週間後に卵胞発育を誘導した。翌日に保定器にマウスを入れ、40℃に保温した恒温槽に固定した。入浴は15分間、その後1時間の休息を取り、これを2回繰り返した。翌日に排卵を誘起し、排卵された卵子数を測定した。結果 抗癌剤投与により、卵巣は顕著に縮小し、卵胞数の減少と卵巣間質に多くの空洞が観察され、卵巣機能不全を呈していることを確認した。本モデルマウスにおいて、Gの湯に入浴したマウスはPの湯および、非入浴区と比較して有意に排卵数が多かった(p<0.05)。これらの卵子を用いた体外受精では、胚盤胞到達率は3群間に有意差を認めなかった。考察 卵巣機能不全マウスの温泉入浴において、「子宝の湯」は排卵数を増加させたことから、卵胞発育を回復する特別な効果を有する可能性が示唆された。