著者
渋谷 百合絵
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.92, pp.48-63, 2015

<p>本稿は、小波お伽噺が宮沢賢治の童話に与えた影響について考察する試みである。昭和五年に成立した賢治童話「まなづるとダアリヤ」〔第五形態〕は、小波お伽噺「菊の紋」と展開や結末が酷似しており、〔第五形態〕への改稿に「菊の紋」が参照された可能性が高い。この二作を展開の構成や擬人化の手法に着目して比較し、〔第五形態〕に「菊の紋」の結末が組み込まれたことの意義を考察した。その上で、賢治がこの改稿の時期に積極的に関わっていた菊・ダリア品評会の岩手における社会的意義を探り、天皇賛美を主題とする「菊の紋」に対して、この〔第五形態〕が持ち得た批評性を論じた。さらに二作の比較から浮かび上がった、小波お伽噺と賢治童話の手法上の共通点と相違点について、大正期童話の小波お伽噺批判をふまえて考察することで、両者の融合として生み出された賢治童話の表現手法の特性を明らかにしている。</p>