- 著者
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渡辺 健策
- 出版者
- NHK放送文化研究所
- 雑誌
- 放送研究と調査 (ISSN:02880008)
- 巻号頁・発行日
- vol.73, no.4, pp.2-24, 2023-04-01 (Released:2023-04-20)
SNSの普及など社会のデジタル化とともに深刻になっているインターネット上の誹謗(ひぼう)中傷の被害対策として、他人の権利を侵害する投稿をした者の氏名などを明らかにする「発信者情報開示」の手続きが、2022年10月から簡易・迅速化された。繰り返されるネット被害に対し、新たな制度はどこまで力を発揮できるのか、効果と課題を整理する。一方、匿名を前提に投稿した発信者の身元情報を強制的に明らかにすることは、表現の自由の保障の観点から、慎重な判断が求められ、双方の利益のバランスの確保が重要となる。また、誹謗中傷の原因にもなり得るネット上の膨大な誤情報・偽情報による、いわゆる「デジタル情報空間の汚染」に、マスメディアはどう向きあうべきなのか。誤情報・偽情報が拡散する程度は、情報の受け手にとっての「重要さ」と「あいまいさ」に左右されるという流言研究の分析手法を手がかりに、最近の誹謗中傷事例を詳しく見ていくと、マスメディア側の伝え方に工夫の余地があること、誤った情報をマスメディアが打ち消す報道を行うことで拡散を抑制できることがうかがえる。さらに、ネット上の情報が事実かどうか検証するファクトチェックをマスメディアがより積極的に行うことも、社会の急速なデジタル化に伴って期待されるようになっている。ネット社会の匿名表現の自由の“可能性”と“危険性”にどう向き合うかを考える。