著者
小樽 麻美 溝口 記広 小柳 傑 陣貝 満彦 渡邊 佳奈 一ノ瀬 真弓 赤垣 武史 熊谷 賢哉
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第28回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.52, 2006 (Released:2007-05-01)

【はじめに】内側縦アーチが低下した状態は、足部や膝関節の障害を生じる原因となっており、下肢や骨盤などに及ぼす影響についての報告も散見される。また臨床現場において、内側縦アーチが低下した症例で股関節の関節可動域制限も生じている例を経験することがあった。そこで今回は、内側縦アーチが低下した状態が股関節に及ぼす影響について、内側縦アーチ正常群との比較検討を行った。【対象と方法】対象は健常成人5名(男性2名、女性3名、平均年齢23.4±2.4歳)の内側縦アーチ正常群(以下、正常群)と、健常成人5名(女性5名、平均年齢25±3歳)の内側縦アーチ低下群(以下、低下群)とした。内側縦アーチはアーチ高率を算出し、毛利らの先行研究を基に11%以上を正常群、11%以下を低下群とした。検査項目は、1)開排可動域:一方の下肢を伸展し、反対側の下肢のみを開排した。この時、開排した側の踵部が伸展側の膝関節に接するように位置させた。この状態で、脛骨外側顆と床との距離を測定した。2)股関節関節可動域3)Q-angle 4)股関節内外転筋力比:HHD(日本メディックス社製パワートラックII)を用いて測定を行った。測定方法は、Danielsらの徒手筋力検査に準じて、側臥位にて股関節内・外転筋をそれぞれ測定した。抵抗は、大腿の最大遠位部にHHDを当て、各筋の等尺性収縮の筋張力を測定した。測定は各筋において3回行い、その平均を測定値とした。股関節内・外転筋それぞれの測定値において外転筋筋力を内転筋筋力で除し、股関節内外転筋力比とした。【結果】股関節内旋可動域の平均値は正常群で41±14°、低下群では53±12°と低下群で大きかった。また、開排の平均値では正常群で4.6±2.9cm、低下群では6.05±2.05cmと低下群で大きかった。Q-angleの平均値では、正常群で10.4±9.6°、低下群で17±18°と低下群で大きかった。筋力については、股関節内外転筋力比の平均値が正常群で1.55±0.79、低下群で1.23±0.25と低下群において小さかった。【考察】今回、低下群において開排可動域が制限されるという結果が得られ、股関節内旋角度やQ-angleについても平均値が大きかった。内側縦アーチが低下することにより後足部が回内し、下腿内旋、膝関節外反し、股関節が内転・内旋位をとるアライメント変化がおこる。その結果、開排制限が生じることが推察される。また、筋力に関しては低下群において股関節のアライメント変化により股関節外転・外旋筋の筋力が低下し、内外転筋力比が減少したと推察される。本研究において、内側縦アーチの低下が下肢アライメントや股関節周囲筋の走行に変化を及ぼし、股関節関節可動域や股関節筋力に影響を及ぼしていることが考えられた。今後は、本研究結果を基に臨床でのアプローチにおいて活かしていきたいと考える。