著者
澤崎 文
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.75-61, 2012-01-01

万葉仮名はその一般的な定義の中に、字母である漢字の字義を捨象して機能する文字であることが合まれているが、『万葉集』において、訓仮名は字母の字義を利用して表記されることがある。本稿では、『万葉集』における訓仮名について、これまで指摘されてきたような字義を表現に利用するための字母選択だけではなく、そこに表記されることで読者に表現意図を意識させてしまうような字義の文字はなるべく使用を避け、万葉仮名の字義を意識させないための字母選択がなされたことを指摘する。また、平安時代の平仮名資料に見られる訓仮名出自の字母を『万葉集』と比較し、『万葉集』における字義を意識させない字母と同じ性質の字母が使用されていることを指摘して、平仮名の表音性に関係づける。