著者
濱口 総志
出版者
日本セキュリティ・マネジメント学会
雑誌
日本セキュリティ・マネジメント学会誌 (ISSN:13436619)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.34-40, 2022 (Released:2022-10-20)

電子署名,タイムスタンプ等のトラストサービスは我が国においても既に広く普及しているが,Society 5.0やDFFT の実現にはトラストを確保する枠組みが大きな役割を担うと考えられており,国内での検討が進められている.トラストサービスはサイバー空間上のトランザクションにおける信頼性を高めるサービスであるが,EU では2014 年に施行されたeIDAS 規則によってトラストサービスに関する包括的な枠組みが一早く整備されている上に,その改正案であるeIDAS2.0 では,更なる対象範囲の拡大と枠組みの強化が提案されている.本稿では,我が国におけるトラストに関する枠組みの検討に資することを目的にeIDAS 規則及びその改正案を先行事例として解説する.eIDAS 規則はEU 加盟国内におけるデジタル単一市場戦略の一部としての側面がある一方で,トラストサービスの法的安定性を確保することでデジタル化と新たなイノベーションの促進を主目的としている.eIDAS 規則の特徴としては,包括的制度であること,各トラストサービスの法的効力を法定していること,トラステッドリストによって自動検証が可能なこと,技術革新に備えたレビューサイクルが定められている事,標準化活動の活用等が挙げられる.eIDAS 規則はその効果について一定評価がある一方で,新しい技術やニーズ,完全なデジタル化の実現に向けては枠組みの更なる強化と拡大が必要と判断されており,改正案であるeIDAS2.0 において新たなトラストサービスとして属性証明や電子台帳,リモート署名が提案されている.