著者
瀬谷 裕美
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.32, pp.229-241, 2011-03-20

本稿は,石膏像素描教育が近代日本の美術教育に導入された意図と,その後の変容を歴史的に明らかにすることを目的とする。工部美術学校と明治期の東京美術学校を中心に,教育目的,指導法,素描様式の3つの観点の変化について,現存する資料と先行研究を基に考察を行った。その結果,石膏像素描は西洋の文化理解の目的で導入され,工部美術学校から東京美術学校へと主要な専門美術教育機関が変遷したことに伴い,臨画から直接の素描へと指導方法も変化したことが明らかになった。また,素描様式には,輪郭線を強調し,中間の調子を抑えて描くという共通点はあるが,構図への配慮は少なくなったことがわかった。
著者
瀬谷 裕美
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.33, pp.249-261, 2012-03-25

本稿は,教材としての素描用石膏像が伝播していった過程と範囲を明確にし,その供給の実態と変遷を明らかにすることを目的とする。東京芸術大学所蔵の資料実物や文献からの調査の結果,石膏像生産業は,素描教育の方法と共に,美術学校主体から民間へと移行していったことがわかった。工部美術学校において西洋から輸入してそのまま使っていた石膏像は,東京美術学校時代からは国内で生産販売するようになった。明治10年代後半の中学校増設に伴い図画教育の総量が増え,大正期に入ると民間の業者も画材を多く扱うようになり,石膏像の生産と供給の量も増えていく。石膏像素描教育は制度として広がったというより,美術教育関係者を中心とした教育法と教材の伝播により,徐々に民間へと普及していった。