著者
片岡 杏子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.35, pp.243-254, 2014-03-20

本論では,子どもの体験における「空間」に着目し,印象的な風景との出会いや造形場面における空間の感じられ方が,主体意識としての<わたし>を支える可能性について検討した。論中では,まず人が肯定的に捉えた体験が自己構造と一致するというC.ロジャーズの理論をふまえて,体験の記憶に伴われる空間のパースペクティブ性が,体験を肯定的に捉えていくうえで重要であると仮定する。そして壮大な風景の中で驚きを感じる体験や,絵の具遊びを行う子どもの体験を取り上げながら,人が印象的な空間体験を通して自分の物語を表現し,生きようとする存在であることを説明する。これをふまえて,子どもが冒険や失敗をする過程において,風景の包容性と作業空間の共同性が体験を肯定するための支えとして機能し,その記憶がさらなる課題の局面において<わたし>を支える根拠となるであろうと考察する。
著者
片岡 杏子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.28, pp.131-142, 2007-03-31

近年,国内の美術館を中心に盛んに行われる「ワークショップ」は,学校教育における教科学習としての制約がなく,多様な人々の関わりを許容するという点において,極めて発展的な可能性を持つ活動手法である。しかし,それは社会教育として広まりながら,必ずしも教育方法として確立されているとは言い難い。本橋では,はじめに近代以降における美術館の普及と美術教育の展開を振り返り,我が国の公共的場面における「美術」の在り方を探るとともに,「ワークショップ」が流行に至った背景をまとめる。次に,ワークショップが今後,社会教育としてさらに広まる可能性を念頭に置き,教育として成立するための諸条件として,「地域社会における日常への浸透」と「単発的教育手法としての確立」を提示し,実践事例を取り上げながら検討する。最後に,今後望まれる役割についてまとめる。