著者
片野 卓 吉村 可那江
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.11, pp.p108-118, 1982-12

本稿は,特養施設老人に関する既発表,拙4論文の続編に当るものであるが,昨年(81年)発表の第4論文,「長生きする老人の条件」を要約することから始めたい.特養施設において,「長生きする老人の条件」を加藤正明の事例性(caseneSS)の概念3)にそくしていえば,彼らは,入所以前の過去の生活にこだわることも,またとくに神仏にたよることもなく,現在の施設生活を充分楽しみかつ幸福だと感じるようなポジティブな心情のもち主,つまりきわめて"アッケラカン"としたパーソナリティ特性の老人であることが浮きぽりにされた.したがって,死ぬ場所としては近代的な設備の整っている施設でと答ながらも,最後をみとって欲しい人物は寮母その他の施設職員ではなく,プライマリーな"家族"にと願う老人が圧倒的に多いという事実が解明されて驚かされた.こうした"アッケラカン"と"したたかさ"をもった長命老人の実態ももちろんそうだが,そうでない施設老人のすべてにいえるのは,日常生活の中にいかにプライマリーな人との直接的な,血の通った接触を求めているかということである.冒頭に記したM老女のふと洩らされた「ボランティアの奥さんと話をするのは‶生〟やさかえ楽しい」という実感のこもった言葉こそ,コミュニティぐるみのボランティアの方向を示すものとして貴重である.