著者
玉置 尚司
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.163-168, 2008 (Released:2009-10-15)
参考文献数
22

ムンプスはパラミクソウィルス科に属するムンプスウィルスによって引き起こされる小児に好発する全身性急性感染症である。唾液腺の両側性の疼痛, 腫脹が主症状で, 小児では軽症に経過する疾患であるが, 年齢が高くなるほど症状が強く出やすい。中枢神経に親和性のあるウィルスで, 無菌性髄膜炎を伴いやすいが, 脳炎に陥り後遺症を残すような例は稀である。数パーセントの割合で一過性の難聴を来すといわれている。しかし, 重要なのは片側性の非可逆性の高度感音性難聴を残すことで, 従来考えられていたよりその頻度は高く, 3,500例に1例の割合で起こると推計されている。本来ワクチンで予防可能な疾患であるが, わが国では1990年前後にMMRワクチンの副反応による無菌性髄膜炎が頻発したという不幸な歴史があるため, ムンプスワクチンの接種率は低くその流行を阻止できていない。今後, より積極的な接種による集団免疫率の向上が望まれる。