著者
玉置 應子
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.2108si, (Released:2021-12-17)
参考文献数
109

人はなぜ眠るのか?この疑問は何世紀にも渡り問われ続けてきたものの,未だに統一見解に至っていない。ノンレム睡眠が学習・記憶に貢献することが報告され,システムコンソリデーション仮説やシナプス恒常性仮説など,複数の仮説が提案された。しかし,レム睡眠については,未だ議論の余地がある。本項では,視覚学習を中心として,ヒトの学習における睡眠の役割について,これまでに蓄積されてきた知見に加えて,新しい脳機能計測技術を用いて明らかにされてきた研究成果を述べる。特に,MRスペクトロスコピーと睡眠ポリグラフの同時計測により,ヒトの睡眠中の興奮抑制バランスを計測することも可能になった。この技術を用いることで,ノンレム睡眠とレム睡眠中には,視覚システムにおいて脳の変化のしやすさ(脳の可塑性)が変動し,オフラインゲインと干渉に対する頑健さという,学習の異なる側面に,それぞれの睡眠が貢献することが明らかになってきた。