著者
王 勁草 Wang Jincao
巻号頁・発行日
2018

リクルート事件とは、1988年に発覚された通信大手のリクルート社の子会社リクルート・コスモス社が当時の政財界の大物に未公開株を賄賂として譲渡した贈収賄事件である。その結果、元官房長官の藤波孝生、元NTT会長の真藤恒、元リクルート社長の江副浩正など数多くの政官界、通信業界の大物が逮捕・起訴され、当時の竹下登内閣は総辞職するに至った。 これまでリクルート事件に関する研究の多くは事件経緯の紹介、政局に対する影響などの側面に集中してきたため、リクルート事件におけるマスコミの役割に関する研究、特にメディアと政治側の関係をはじめとする日本新聞の特性とリクルート事件の進展を踏まえながら検証する研究は少ないのが実態である。それゆえ、本研究では、リクルート事件を一つの事例として、政治汚職事件におけるマスコミ報道の役割、特にそのアジェンダ・セッティングパワーを検証することを目的としている。結論として、「公正中立」、「不偏不党」など報道者としての立場を失ったことは、リクルート事件報道の問題点であることが指摘される。その理由は、政党、特定の政治家との距離感による先入観が、新聞の報道姿勢、ないし議題設定機能を左右したことである。