著者
田部井 徹
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.777, 1982-10-10

ダウン症候群は,G21トリソミーあるいはD/G,G/G転座による常染色体異常に起因し,出生児の0.17%に出現する。本症は満40歳以上の高齢母親から出生する頻度が高く,とくに転座によるダウン症は,転座保有の親から出生しやすいという。主な臨床症状は,蒙古人様顔貌,四指の奇形および精神知能障害などであるが,出生後早期から適切な治療を開始すれば知能低下や精神障害の程度は軽減させることが可能であるといわれている。 現在迄,ダウン症患者の遺伝学的な検討は数多くあるが,生殖機能に関する報告は少ない。男性の患者は,性器の発育不良による性交不能あるいは精子形成障害がみられ受精能力が欠除することが多く,従って本症の男性が父親になったという報告は見当らない1,2)。通常,女性の患者は,初潮が発来し,月経を有することが多いが,妊娠し分娩する頻度は極めて低い3,4)。本症患者は早死する率が高く,結婚する機会が少なく,さらに重症の精神障害や知能低下のため性交が不可能であることが多いためといわれている。