著者
祖父 江寛
出版者
社団法人 繊維学会
雑誌
繊維学会誌 (ISSN:00379875)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.25-32, 1946

螺旋形セツト人毛の卷縮を引伸す際の荷重伸張曲線は全纎維長短かく山數少なき場合は之のみでも羊毛のと類似した曲線を示すが全纎維長が長くなると最初の直線部分が増加する。但し一度伸張せるセツト羊毛は水中に於て荷重伸張曲線の再現性なく延び易くなつて居り,側鎖結合の切斷を示すと考へられる。螺旋の卷數多く全纎維長の多い螺旋卷縮セツト人毛は水中及び空氣中にて著しく直線的となる。實驗した如き強い捲縮の場合にはHenning,櫻田氏等の方法では全捲縮度は適用し難い。又卷縮の彈性度と水中と空氣中とでの差か餘りに小さく適當でない。卷縮の引延し恒數も一定とならない。寧ろ彈性度は全伸びの仕事量に對する彈性伸びの仕事量で表す方が良い樣に考へられる。比濕62%中の此捲縮人毛の剛性は水中の約10倍を有する。<br>平面波形卷縮セツト人毛の荷重伸張曲線も羊毛と類似形を示すがやゝ直線部が多い樣である。此場合も引伸し恒數は餘り恒數とならず,全捲縮度も適當でない。卷縮彈性度は此場合は相當水中と空氣中で異りやゝ此方法で適するのでないかと考へられる。&beta;ケラチンに轉移しておいてからのセツトも大體同樣で著しい相異はない。<br>羊毛の理想型卷縮形にセツトせる人毛は最もよく羊毛の荷重伸張曲線と類似して曲線を示し,水中に於ける再現性も羊毛と殆ど同一で曲線の形の上からも此卷縮形を羊毛がとつてゐると考へられる。<br>羊毛の試長を變化し,此荷重伸張曲線を得,全纎維長に對する%で長さを表す時之は同一とならず,試長の長いもの程緩慢に變化する曲線を示す。依つて之を考察し,螺旋の伸びは纎維全長に比例するから%で長さを表す時は同一になる筈であるが平面波形の伸びは全纎維長の3乗に比例するから尚變化する筈なる事及び最初の内の差が殊に著しい事より羊毛卷縮の引伸しには先づ波形の引延しが起り後程螺旋引延しが多くなると考へたり。<br>尚防縮處理の一つであるSO<sub>2</sub>Cl<sub>2</sub>処理によつて比荷重伸張曲線にもやゝ剛くなろ事を示し,膨潤分析にてセツト捲縮の外内にての膨潤速度差は認められざるを明らかにし,又酵素分解にて羊毛の卷縮の外側先づ分解し初むる事を初めて明らかにすると共にセツト卷縮には之が認められざるを示したり。<br>終りにケラチン纎維の物理化學的研究に就いては文部省科學研究費及栗原奨學資金の補助を得たり。記して以て深甚なる謝意を表す。