- 著者
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神永 正史
- 出版者
- 日本語学会
- 雑誌
- 日本語の研究 (ISSN:13495119)
- 巻号頁・発行日
- vol.12, no.4, pp.52-68, 2016-10-01 (Released:2017-04-03)
- 参考文献数
- 21
中古中期の仮名散文における「~てあり」の例文には,変化の結果状態を表すものとして,「(変化)主体+自動詞+てあり」と,「(動作)対象+他動詞+てあり」の形態を示す二つの構文がみられる。この「~てあり」の二つの構文と,「~たり」のもつ同じ二つの構文との比較を試みた。その結果,「~たり」には,主体の自発的変化,動作的変化,因果的変化の結果と,対象変化の結果を表す用法があるが,「~てあり」には,主体の因果的変化の結果を表す用法がないことを明らかにした。「~たり(たる)」は中世後期には衰退していき,その各用法は「~てある」や「~てゐる」に継承されていくが,その継承において,「~てある」や「~てゐる」構文の主語が,動詞「ある(在る)」「ゐる(居る)」の主語の性情による制限と関わるかどうかによって,京阪と東国では異なっていることも示した。この異なりの結果は,現代共通語のテアル,テイルの振る舞いの違いに結びつくのではないかと思われる。