著者
山﨑 俊信 福原 正博 中村 辰之介 朝倉 俊成
出版者
一般社団法人 日本くすりと糖尿病学会
雑誌
くすりと糖尿病 (ISSN:21876967)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.256-262, 2020-12-20 (Released:2021-01-27)
参考文献数
9

糖尿病の自己注射療法において,カートリッジゴム栓の消毒不徹底,患者の皮膚組織や血液が逆流する「逆血」などが原因で,細菌が薬液内に入ってしまう(細菌混入の)可能性が否定できない.そこで本研究では,薬液内に混入してしまった細菌が繁殖あるいは死滅する時間的推移を確認した.試料は,インスリン製剤3種とGLP-1受容体作動薬1種,インスリンとGLP-1受容体作動薬の合剤1種,そして生理食塩水とし,細菌は表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)を用いた.菌数が104 CFU/mLになるように調整した菌試験液を試験温度4℃/25℃環境に保持し,定期的にCFUを測定した.結果は,1h(4℃)で細菌数が増加した製剤はリラグルチド(ノボノルディスクファーマ:ビクトーザ®)とインスリンアスパルト(ノボノルディスクファーマ:ノボラピッド®),1h(25℃)ではビクトーザ®であり,他は減少していた.その後,6hでは全製剤において4℃に比べて25℃の細菌存在比は小さかった.なお,インスリングラルギン(サノフィ:ランタス® XR)は両温度条件でも1h時点で細菌の存在が極めて少ない状況であった(比率はほぼ0).また,全ての製剤において,表皮ブドウ球菌の細菌存在比は4℃に比べて25℃保管の方が小さく,m-クレゾールなどの殺菌作用が温度に影響されることが推察された.また,4℃保管でも全製剤が6h時点で細菌存在比が減少しており,臨床においては次回の注射時刻までには細菌の増殖を抑えていることが確認された.考察として,ランタス® XRはいずれの温度でも1h時点の細菌存在比が極減していたが,その理由はpH3.5~4.5であるためと推測できる.また,ランタス® XRおよびインスリンデグルデク/リラグルチドの配合注(ノボノルディスクファーマ:ゾルトファイ®)以外の3剤においては,菌の存在比率がインスリンリスプロ(イーライリリー:ヒューマログ®)<ノボラピッド®<ビクトーザ®であり,m-クレゾール含有量と相関が取れていた.手技指導において,注射開始時はゴム栓表面の十分な消毒を励行して細菌混入を防止し,保管方法について,使用前はインスリン成分の変質を防ぐために冷所で,また使用中は細菌の増殖を防ぐために室温に保管することを原則とする必要があるという結論を得た.