著者
福本 智之
出版者
大阪経大学会
雑誌
大阪経大論集 (ISSN:04747909)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.63-82, 2022-07-15 (Released:2022-08-01)

中国人民銀行が政府である国務院の一部門であることから,重要な金融政策の最終決定は国務院が行う。そうした中でも,日々の公開市場操作や窓口指導・MPAの運用では相応の裁量が,中国人民銀行に与えられている。 中国人民銀行の金融政策の目標は多重的であり,それを実現するため多様な政策手段を駆使している。国際金融のトリレンマの下,資本移動の自由を一定程度制限することによって,不完全ながら他国から独立した金融政策を行っている。近年実態上の資本移動の自由度が高まったため,人民元レートの柔軟性を向上することで金融政策の他国からの独立性の維持向上を図っている。 中国人民銀行は近年公開市場操作のウエイトを高めている。短期の政策金利であるリバースレポオペ7日物金利を中心に金利コリドーが設けられているほか,中期の政策金利であるMLF1年物金利は,これを基準に貸出優遇金利LPRが形成されるようになっている。もっとも,現在でも,中国人民銀行は,金融機関の融資行動等に直接働きかける窓口指導やMPAといったツールを重視している。これは,人為的低金利政策の下信用割当を行うためと,他国の金融政策から影響を受けるために金利政策だけに頼って金融政策を行えないため等によるものである。 政府の一部門として政府の政策目標を実現するため,中国人民銀行には,中小企業支援,貧困扶助,脱炭素などの政策金融的目標も与えられている。中国人民銀行は,これに対応するため,構造的金融政策を実施している。