著者
福留 はるみ
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.790-796, 2003-10-10

はじめに 先の横浜市立大学医学部附属病院患者取り違え手術事件判決は,個人の過失には組織における安全管理体制の不備が影響を与えるということを示唆する内容であった。事故発生当時,「安全」は空気のような存在で,失敗した人を責めるという責任追及型の懲罰モデル(失敗した人を罰する)の考え方が主流であり,マスコミだけでなく,医療界でもそのような風潮があった。 この事故が発生して4年を経たいま,医療法の一部改正,診療報酬上の未実施減算という行政主導の仕組みづくりが追い風となり,責任追及型の懲罰モデルから原因追求型の学習モデル(失敗から教訓を得る)へとシフトしているが,実際のところ医療現場の安全管理体制はどのようなプロセスを経て,どのように進展しているのだろうか。 医療安全の仕組みは,厚生労働省「医療安全推進総合対策―医療事故を未然に防止するために」や,厚生労働省国立病院部政策医療課「国立病院・療養所における医療安全管理のための指針」などで標準化されたものができている。この仕組みに対する評価は,今後,適宜見直されることになるだろう。 そうしたなかでいま,医療現場が直面している問題は,仕組みづくりはできたが,その仕組みを効果的に運用できず,事故防止を推進するプロセスに時間がかかり,思うようなアウトカムを出せず苦労しているということだ。また,医療安全対策の推進に伴うプロセス評価・アウトカム評価についてどのような視点をもち,マネジメントしていくかが看護管理者としての大きな役割であるが,ロールモデルがないため,各自で検討し試行錯誤しているのが現状である。しかし,看護部門では,医療安全については,従来より業務委員会などで質管理の一環として取り組んできたのである。このように看護部門だけでやってきた取り組みから,全職員対象へと拡充したという経緯から考えると,全く新たな未知の分野ではない。 そこで,本稿では,医療安全対策を実施する上でどのような見直しがいま必要なのか,よくありがちな陥りやすい失敗のポイントなどを挙げ,実質的な改革につながる医療安全対策について具体的に提案し,現場で感じているジレンマやストレス等の問題解決方法について検討する。