著者
秋山 里子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.74-79, 2005-05-01

1.はじめに 秋山里子の自己病名は「人間アレルギー症候群」である。「人間アレルギー症候群」とは、自分も含めた「人間」に対して起きるアレルギー反応である。抗原-アレルゲンと化した人間に接するとさまざまな症状が出現し、生きていくことが困難になる。そして、外敵から自分を守る「免疫のシステム」が混乱を来たし、敵味方の識別ができなくなり、無差別に人間に反応する。その結果、この8年間で仕事を12回、転居を14回行ない、常に自分の居場所を探し求め続けてきた。 この人間アレルギー症候群は、図1のような多彩な症状をもたらす。その症状のベースには、巨大な自己否定の感情が地下水脈のように張り巡らされている。だから生きるテンションが低い自分がみんなの中にいると、周りの人間のテンションも低くしてしまうように感じて申し訳ない気持ちになり、職場の輪の中にいられなくなる。 人をまるで「異物」と感じ、はじこうとする身体の反応を明らかに意識するようになったのは、19歳のときであったが、今思うと高校1年生のときにすでにその兆候があり、みんなが楽しみと思うことを楽しむことができない自分がいた。そのとき以来、脳裏には常に「死」という言葉が浮かび、周りに合わせることで必死になっていた。 秋山里子は朝日新聞の連載で浦河を知り、昨年10月に来町し母と2人で暮らすようになった。浦河に来ても相変わらず引きこもる自分に、母は「自殺行為」を恐れ、外出するときにはいつも包丁をバックにしまい家に置かないようにしていた。 しかし、しだいに秋山里子は1人でいる時間が虚しくなり、自然と人が恋しくなり、日赤病院のデイケアに通い、ベてるのメンバーと触れ合うようになる。そして同じような苦労をかかえている仲間と出会うなかで、「人間アレルギー」というテーマが見えてきた。