著者
端木 和経
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.148-163, 2017

<p>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;本稿では北京における温州企業の集積地として知られる大紅門アパレル産業地域を事例として,温州出身者による企業が,どのような方法で親族や同郷者等との社会的ネットワークを活用しながら事業を成立させ,産業集積を形成したのかという点を検討した.以上の点を明らかにするために,本研究では同地域でアパレル生産・販売の事業を営む経営者82 名に対して資料収集とアンケート調査及びインタビュー調査を行い,その内容を分析した.調査結果は以下の通りである.大紅門では1980年代から温州出身者によるアパレル製品の工場と販売店の起業がみられるようになった.事業に成功した先行事業者たちは,さらに事業を拡大するために,親族や同郷者たちを労働者として大紅門に呼び寄せていった.これらの大量の労働者たちには,独立して起業する人も多かった.彼(女) らの多くは,縫製工場等で働きながら,生産や販売のための技術や知識,人脈等を身に付けていった.既に事業が軌道に乗っていた先輩の経営者たちは,地縁・血縁のある起業希望者たちに資金援助や取引先業者の紹介等の支援を行っていった.また,このような支援は,生産や販売面で分業を行うことができ,取引先の確保にもつながるため,先行事業者にとっても利益があったと推測される.このようにして大紅門には,地縁・血縁に基づく社会的ネットワークを有する同郷者による小規模事業者の集積が拡大していったことが明らかになった.</p>