著者
羽良 朝風
出版者
奈良大学大学院
雑誌
奈良大学大学院研究年報 (ISSN:13420453)
巻号頁・発行日
no.23, pp.186-176, 2018-03

" 和歌山県九度山町に所在する慈尊院は、弘法大師空海とその母公に由緒のある寺院で、ここにはいくつかの注目すべき密教法具が伝来する。 今回の調査の対象とした密教法具は、いずれも現存遺品が少ない形式や細部意匠を持つ作例である。金銅独鈷杵は「鬼面・鬼目式」という特異な形式を持つ。金銅五鈷杵は、仏舎利を埋納したと考えられる埋金の跡が見られ、これは空海請来の五鈷杵にも見られる。金銅五鈷種字鈴は、作例の少ない種字鈴である。金銅三鈷鈴は、特異な三鈷を持ち、大陸からの請来品と考えられる。飲食器は、空海の母公の「歯」が奉籠されたという伝承を持つ。 また法具は、形式等から鎌倉時代から室町時代の製作と考えられるが、中世の史料が少ない慈尊院において、その間の事情を物語る重要なものである。特殊な形式を持つ作例が多いことは、慈尊院が中・近世において真言密教の有力寺院であったことを示す。"