著者
芝 哲史 笹田 耕一 平木 敬
雑誌
情報処理学会論文誌プログラミング(PRO) (ISSN:18827802)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.1-22, 2012-08-20

近年,様々なスクリプト言語処理系に対してコンパイラが開発されている.これらのコンパイラは処理系に組み込む形で実装されることが多く,新しくコンパイラを開発するために,処理系そのものの再実装や,処理系の大幅な改変が行われている.このため,スクリプト言語処理系に対する新たなコンパイラの開発には多大な労力をともなう.そこで我々は,スクリプト言語RubyのCによって実装された処理系(CRuby)の機能を活用することで,処理系に対して新たに手を加えることなく動作するコンパイラCastOffを開発した.CastOffは,実行時コンパイル,コンパイル済みコードの再利用,プロファイル実行,アノテーションのサポート,脱最適化,再コンパイルなどの機能を持つ.これらの機能を,CastOffはCRubyのCによる拡張ライブラリ(C拡張)としてCRubyにいっさいの変更を加えずに実現している.本稿ではCastOffの設計と実装を述べ,CastOffの機能をRubyのC拡張でどう実現したかを詳細に解説する.そして,CastOffのようにライブラリとしてコンパイラを実装するために,どのような機能が必要かを議論する.
著者
芝 哲史 笹田 耕一
雑誌
第51回プログラミング・シンポジウム予稿集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.21-28, 2010-01-12

本発表では、Ruby1.9が提供するFiberという機能の高速な実装を報告する。Fiberとは、プログラマに対して並行処理をサポートするための機構であり、状態を持つ処理を並行に扱う際に有用である。しかし、Ruby1.9におけるFiberは速度面に問題がある。そこで我々は、Ruby1.9処理系に対してFiberの高速化を行い、複数の環境で評価を行った。その結果、Fiberの速度の向上を確認することができた。本発表では、Ruby1.9の現在の実装と我々の行った実装の紹介と、その性能評価を行う。そして、それらが実際にFiberを利用するRubyプログラムに対して、どのような影響を与えるかを考察する。
著者
芝 哲史 笹田 耕一 卜部 昌平 松本 行弘 稲葉 真理 平木 敬
雑誌
情報処理学会論文誌プログラミング(PRO) (ISSN:18827802)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.90-108, 2011-03-16

本稿では,Ruby 処理系とほぼ完全な互換性を持つ AOT コンパイラの設計と実装について述べる.Ruby は数多くのライブラリを持ち,数多くの環境をサポートしているプログラミング言語の 1 つである.本研究では,Ruby 処理系との互換性,および可搬性に優れた手法を用いて,既存のすべての Ruby プログラムを,Ruby がサポートするすべての環境で高速化することを目標としている.我々は,この目標を達成するために,Ruby スクリプトをコンパイルしたバイトコード列を C 言語に変換し,Ruby 処理系の仮想マシン (RubyVM) 上で動作させる AOT コンパイラを開発した.開発した AOT コンパイラは,生成する C 言語ソースコードを RubyVM のメソッド呼び出し機構,例外処理機構などを利用して動作させることで,Ruby 処理系との互換性をほぼ完全に保ちながら,Ruby プログラムの実行を高速化する.本稿では開発した AOT コンパイラの設計と実装,開発によって得られた知見について詳しく解説する.そして,開発した AOT コンパイラの機能と性能を評価する.