- 著者
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花房 英樹
H. Hanabusa
- 雑誌
- 西京大學學術報告. 人文 = The scientific reports of Saikyo University. Humanistic science
- 巻号頁・発行日
- no.2, pp.124-134, 1952-12-20
あの暗い十年の間,我國と中國との學界は遠く隔てられてゐた。やがて終戰とともに新しい世界は開けて來たが,なほ事情は不通であつた。その昭和二十一年のころ,神田先生の助言を仰ぎながら,私は白氏文集の文獻批判に著手し,翌年に至つて完了,續いてその文學に眞向つてゐた。それから三年を經て,戰爭の爲に公表されなかつた幾多の業績を收めた,國立中央研究院の歴史語言研究所「集刊」が漸くに到着した。そしてそこに,はからずも岑仲勉氏の勞作を見出したのである。かつて私が採つた對象が似通ふ手續きで處理されてゐた。同志を得たことゝ,私の結果を驗算し得たことを喜ぶとともに,又心の痛むのを意識せずにはゐられなかつた。氏の論文に觸れてゐたとすれば,二年に近いあの段階に於いて,時間と努力とをかなりに節約することができただらうと考へたからである。更には我國に存する資料を提供することによつて,岑氏の勞作をより充實し得たであらうとも考へたからである。かうしたことはこの場合のみではなかつた。しかもその後も,一再ならずして事例を聞く。事態は一向に改善されてゐないのである。私は屡々岑氏に直接話しかけたいとも思つたが,そのよすがさへないまゝである。そこで,いつか岑氏の耳にも入ることがあつて,御意見を伺ふ機會もと願ひ,かつはわが學界で我々の結果との對比も要求せられてゐるまゝに,氏と見解を異にする事項を書きつけた舊稿の中から,思ひつくまゝに拔出してこの一文を綴つたのである。