著者
菊山 逸夫
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.572-580, 1978-06-01

糖代謝が胎児新生児の発育にどのように関連しているか知る目的で,妊婦静脈(M.V),分娩時母体股動脈(M.A),〓帯静脈(U.N),新生児静脈より採血した赤血球の解糖系酵素(G-6-PDH, PK, F-6-PK)活性を,ultraviolet法により測定し次の結果をえた. 1) 妊娠各月数における酵素活性の変化に一定の傾向はみられず,正常婦人のそれとも差はなかつた. 2) 酵素活性の母児相関 G-6-PDH活性:r=0.609, F-6-PK活性:r=0.792, PK活性:r=0.548で,これらの相関はすべて有意であつた. 3) 出生体重とG-6-PDH活性 満期産児では体重の重いものほど高い活性をしめした.しかし早産未熟児では低体重にもかかわらず,巨大児と同程度の高活性であつた. 4) 分娩時間とG-6-PDH活性について,M.Aでは15時間を越えると低値をしめすものが多く,予定帝王切開群では経腟分娩群に比べ低値をしめした(P<0.05). U・Vでは時間による変化はみられず,分娩様式においても差はなかつた. 5) Embden-Meyerhof pathwayとP.M.SのratioをF-6-PK/G-6-PDHで表わすと,M.A=11.0, U.V=5.5で,胎児のP.M.S優位が証明された. 6) 新生児の各酵素活性に男女差はなかつた.G-6-PDH活性はU.Vに比べ日令7日で30%の低下がみられた.F-6-PK, PKでは日令変化はなかつた. 7) 特発性高ビリルビン血症をおこした新生児で,光線療法をした児に活性変化はなかつたが,ACTH投与児ではG-6-PDH活性の低下をみた(P<0.05). 以上よりP.M.Sは胎児体重と密接な関係があると推察された.また母と児の酵素活性が相関していることから,母体のP.M.Sを活発にすれば胎児体重を増加せしめうるのではないかと考える.