著者
藤並 祐馬 五十嵐 久美子
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.103-114, 2015-06-20 (Released:2015-07-14)
参考文献数
11

インドネシアでは、憲法第28H条で最低限の生活を行なうために社会保障を受ける権利を有していることを述べるとともに、第34条で国に全ての国民に社会保障を提供し、適切な保健サービスを提供する義務を課している。インドネシア政府は、これら国民の権利を守り国家の義務を果たすため、これまでに労働者、軍・警察、公務員、雇用者、自営業者、低所得者を対象とした社会保障制度を整備してきた。しかし、対象毎に異なる制度が導入され、その補償内容には差があった。また、これらの対象及びそれらの家族以外の国民には、公的な社会保障が提供されていない状況であった。  そのような中、憲法で保障された国民の権利と国家の義務をより強固なものとして実施するために、全国民を対象とした新社会保障制度が、2014年より段階的に導入されることとなった。  新制度では、6ヶ月以上インドネシアに居住する外国人も強制加入の対象となっているが、英語などの資料が少なく、導入時点での在留外国人への周知という点では必ずしも十分でない点が見られる。  新社会保障制度では、大きく保健関連と労務関連の2つの分野に分けられ、まずは保健関連の社会保障制度として国民健康保険が2014年1月から導入された。2013年の医療保障制度対象者は民間医療保険も含めて国民の69%であり、その対象の属性に応じて4種の制度に大別されていた。新国民健康保険制度では、多種多様な健康保険制度を一つの制度に統合し、2019年までに全国民を対象とするユニバーサル・ヘルス・カバレッジを目指している。新制度では、2005年から導入された貧困層を対象とした医療保障制度(JAMKESMAS)を基盤としており、一次医療の重点化及び診療報酬制度の導入が、その特徴である。保険適用を受けるためには必ず一次医療施設で受診することが義務づけられた。このため新制度が広く受入れられるためには、一次医療施設で提供されるサービスの質次第でこれまで病院で保健医療を受けていた人にも受入れられる制度になるかどうかが大きな鍵を握っている。  本稿では、これまでのインドネシアの社会保障制度を振り返るとともに、各法令に記載されている新社会保障制度の規定について、2014年に先行して始まった国民健康保険制度を中心にまとめる。最後に、法令で定められた制度を実施する上での課題について考察する。
著者
藤並 祐馬
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.137-148, 2016-06-20 (Released:2016-07-21)
参考文献数
15

本項では、著者が専門家として携わった日本とインドネシアのODAにおける看護実践能力強化プロジェクト(以下、プロジェクト)の2012年12月から2015年12月までの経験が提示され、そのプロジェクトにおける経験や結果を基にラダーの活用法について議論が行われている。  プロジェクトでは、インドネシアにおいてラダーの強化とラダーを応用したカリキュラム作りを通した看護師の継続研修を強化する取り組みが行われている。その取り組みを通して、インドネシアではラダーをカリキュラム作成、研修の計画立案と運営、看護師の職務権限の付与、効果的な人材配置などに応用していることが明らかとなった。また、近年組織運営において内部統制を強化する重要性が認識されるようになっているが、現在インドネシアで強化が進められているラダーの形にいくつかの要素を足すことで、ラダーが内部統制としても応用可能である事が明らかとなった。  現在日本でも多くの病院がラダーを導入しているが、その多くが人材育成を目的としている。一方で、筆者は文献研究やプロジェクト活動の結果から、①一貫性のある看護管理、②病院と看護師のコミュニケーションツール、③公平・公正な評価、④研修内容の明確化と効果的な研修計画、⑤病院と外部とのコミュニケーションツール、⑥職務権限付与の根拠、⑦内部統制などにも活用することを提案した。