著者
藤本 典嗣
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.292-303, 2017

<p>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;「グローバル」と「世界」は,国家間の国境がなくフラットな中で諸経済フローが地球中の空間に展開する状態と,国境は存在するものの世界経済の中に諸経済フローが中核・周辺などの階層に包摂されていく状態とに区分される.金融はその地理的な流動において,国際決済通貨や証券・債権のいずれにおいても価値尺度の世界的共通性もあり,前者のグローバルな性質を内在している.<BR>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;1986年に「世界都市仮説」がJohn Friedmannにより提示されて以降,金融指標をはじめとする諸経済フローを用いて,世界の主要都市の地位・序列を様々な統計手法でランキング化し,都市間の階層構造を明らかにする試みが,英語圏・本邦の都市研究の中でも,都市システム研究により主におこなわれてきた.<BR>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;そのなかで,GaWC (Globalization and World Cities) 研究ネットワークなどの英語圏の研究の多くは,欧米を主眼に置いた都市間結合を明らかにしているが,多くの文献で東京の地位が下がったことが指摘されている.<BR>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;本稿は,都市システムの階層構造の中で,金融面に着目し,東京がどのように位置付けられるのかの分析をおこなった.まず,国内における金融面での東京の地位について,従来から地域構造論で扱われてきた預貸率分析に加え,日本銀行券受払の本社・支店別収支からも,明らかにした.他方で,グローバル都市システムにおける,東京の地位については,株式時価総額,外国為替取引額や関連する指標を用いながら,国民経済規模との関係で,その位置付けを検証した.<BR>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; 国内では,その地域的経済規模以上の,金融機能が集中している東京であるが,国際比較においては,日本の国民経済の規模と同程度の国際金融機能を量的に有していることが,株式時価総額,外国為替市場取扱額などの数値から明らかになった.また,東京の地位が下がっていることが確認されるのは,香港,シンガポールなどの新興市場や,ロンドンとの比較の上であり,大半の国の世界都市は,その都市がグローバルな結節となる国・地域の国民経済規模未満の国際金融機能しか有していないことが明らかになった.</p>