著者
森山 郁子 平岡 克忠 藤田 正之 飯岡 秀晃 一條 元彦 加納 晴三郎
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.34, no.12, pp.2149-2154, 1982-12-01

現在,食品添加物は335種におよび,当然妊婦の摂取も不可避であるため次世代への安全性が調査されている.今回はその一環として,過酸化水素について,一般に食品の脱色剤または殺菌保存に汎用されているために,妊娠時摂取による胎児.新生児発育に与える影響及び,混合食品中の栄養素の変性をもたらす可能性を明らかにした.実験方法はwistar系妊娠ラットを用い膣栓確認を妊娠0日とした.急性毒性試験は非妊ラットに経口的に10,1,0.1%各濃度を2ml/kg,連続5日間投与した.臨界期投与は,粉末飼料に10,2,0.1,0.02%の割合で混合し摂取させた.胎児・新生児の影響は,妊娠20日目胎児摘出後体重と各臓器重量,外表所見を検討した.骨格所見はWilson法,内臓所見はDawson法により判定した.混合飼料中の残存過酸化水素量は,0.1NのKMnO_4の消費量から測定した.1)急性毒性試験は3濃度とも死亡例はないが,10%群の体重減少が著明であった.2)胎児発育は,10%投与群が3.73g±0.39(対照群4.07g±0.25)に低体重の傾向が著明であり,生存率は85%(対照群98%)であった.内臓所見は出血が高濃度群に20%,骨格所見は高濃度群に20%の形成不全を認めた.3)新生児の影響は,生後4週間の生存率でみると10%,2%,0.1%,0.02%群はそれぞれ0%,81.2%,84.3%,87.1%(対照群93.4%)であり,影響は生後にまで及んだ.4)混合試料の残存H_2O_2は24時間後に1/10に低下し,72時間後は,分解され消失した.急性毒性試験で死亡を認めないのは体内カタラーゼによる急速な分解作用によるが,胎児・新生児発育の影響は,過酸化水素が飼料中の栄養素を破壊し蛋白質,含水炭素,脂肪の変性と被酸化性ビタミンの不括化の結果,摂取栄養素の不均衡によると考えられる.