- 著者
-
行田 洋斗
- 出版者
- 日本映像学会
- 雑誌
- 映像学 (ISSN:02860279)
- 巻号頁・発行日
- vol.109, pp.109-127, 2023-02-25 (Released:2023-03-25)
- 参考文献数
- 25
本論文は、演出の観点からストローブ゠ユイレ作品における俳優の発話について論じる。これまでの先行研究では、その不自然なアクセントや休止を伴った特異な俳優の発話について「音楽的」や「異化効果」といった言葉とともに論じられてきたが、抽象的かつ曖昧なかたちでしか考察されてこなかった。本稿では、作家のインタビューや演出時のリハーサル映像、メモが残された脚本等の資料を使用し、その生成過程を探ることで、ストローブが「朗誦」と呼ぶ発話を具体的に分析することを目的とする。そのため、まず第一節ではフランツ・カフカの『失踪者』の翻案作品である『階級関係』(1984年)を例にとり、監督のリハーサル前の構想を確認する。第二節では、そのリハーサル映像に基づいて、特定の語が実際にどのように演出され、俳優に身体化されているのかを分析する。続く第三節では、前節までに確認した発話が、作品のなかでいかに形成され、どのような役割を担っているのかを確認する。そして最後に俳優の身体とテクストの両方を重視する、反復という方法論について論じたい。以上の考察から、ストローブが「朗誦」と呼ぶものとは、俳優固有の声と、テクストに内在する情動を結びつけることであると結論づける。