著者
西 悠哉
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大學大學院紀要 (ISSN:13442422)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.19-35, 2007-03-01

綱島梁川(一八七三-一九〇七)は、哲学や倫理学に関する多くの著作を残す一方で、自らの宗教体験の告白「予が見神の実験」(明治三十八年)によって世間の注目を集めた。日露戦争の只中、多くの青年が自己・世界の意義について懐疑し、煩悶が社会現象になっていた。「見神」と呼ばれるこの体験において、「神は現前せり、予は神に没入せり、而も予は尚ほ予として個人格を失はずして在り」(「予は見神の実験によりて何を学びたる乎」)と述べられる事が注目される。このことは、本論文で示すように、宗教と倫理・社会の関わりという、より基本的な問題に梁川は身をもって答えているのである。本稿では、宗教と倫理をつなぐものとして、梁川の個我に注目し、宗教と倫理を断つ時代風潮に抗して、それらを橋渡しする個である梁川の自我を探る。