著者
網田 和宏 大沢 信二 西村 光史 山田 誠 三島 壮智 風早 康平 森川 徳敏 平島 崇男
出版者
日本水文科学会
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.17-38, 2014-02-28 (Released:2014-05-28)
参考文献数
45
被引用文献数
2 3

温泉起源流体としての変成流体を探索するために,西南日本の前弧域の中央構造線沿いに湧出する高塩分温泉において,温泉水や付随ガスを採取し化学・同位体分析を行った。その結果,和歌山と四国地域で採取した温泉水試料から,現海水や浅層地下水に比べて水素・酸素安定同位体組成の大きく異なる温泉を見出した。四国地域の温泉起源流体は,Li-B-Cl相対組成やHe同位体システマティクスから,続成流体の一つであることが確認された。一方,和歌山地域の温泉起源流体は,続成脱水流体とは異なるLi-B-Cl相対組成を示し,また高い3He/4He比を有していることから,大分平野で得られたものと同様,その起源が変成脱水流体にあると判断された。和歌山,大分の温泉起源流体と四国,宮崎のそれでは,付随ガスの化学組成において前者がCO2に富むのに対して後者はCH4に富むという明瞭な違いが認められ,また,和歌山と大分の付随ガスに含まれるCO2の大半が,沈み込み帯の火山ガスと同様に,海成炭酸塩に由来するものであることが示された。さらにこれら起源流体のLi-B-Cl相対組成は,続成脱水流体と火山性熱水流体のそれの中間的な値を示した。これらの結果は全て,和歌山と大分の温泉起源流体が,沈み込むフィリピン海プレートより脱水してきた変成脱水流体であることを示唆しているものと考えられた。