著者
榊原 茂樹 譚 鵬
出版者
日本知的資産経営学会
雑誌
日本知的資産経営学会誌 (ISSN:27586936)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.6, pp.28-40, 2020-12-20 (Released:2023-05-01)

本論文は,国際統合報告フレームワーク(IIRC〈framework〉)が意図するように,統合報告書(IR)の発行が財務数値の株式価値関連性を追加的に高めたかどうかを,2004―2016年に初めて統合報告書を発行した日本企業を対象に検証した。 全サンプル企業を対象とした検証の結果は,非正規分布の株価データを正規分布へと補正する程度に応じて,異なった。すなわち,補正の程度が緩いケースでは,財務数値の価値関連性はIR の発行によって「追加的に」高まったが,さらに正規分布へとヨリ近付けると,財務数値の価値関連性の「追加的」増加は消滅した。 次に,全サンプル企業を製造業と非製造業に2 分割すると,製造業企業においては,正規分布への補正の程度に関わらず,財務数値の価値関連性の「追加的」増加が観察された。他方,非製造業企業については,補正を行うと財務数値の「追加的」価値関連性は消滅した。本論文の貢献は,IR の発行は製造業企業の株式投資家にとってヨリ有用性が高いことを示したことにある。