著者
貝塚 正光 岩本 静男
出版者
社団法人空気調和・衛生工学会
雑誌
空気調和・衛生工学会論文集 (ISSN:0385275X)
巻号頁・発行日
no.33, pp.103-113, 1987-02-25
被引用文献数
1

室内の熱環境は,気温・湿度・気流・放射などの物理的条件と,着衣・代謝などの人体側条件とによって評価される.これらを総合した温冷感指標の一つとしてPMVがP.O.Fangerによって提唱されている.通常の空調室内では,これらの物理的条件やPMVは一様ではなく,その不均一さは在室者の不快や空調効率の悪化を招く.例えば,コールドドラフト,大きな上下温度差,大きな片側放射冷却や加熱などの障害を生じたりする.したがって,熱環境をより的確に評価するためには,このような物理的条件やPMVなどの分布をも把握する必要があり,数値予測法はそのための有力な方法となりつつある.室内気流や気温の分布の数値予測法については,例えば貝塚に概観されているように,多くの研究がなされており,実用的にも用いられる段階に至っている.また,本論文で取り扱う室内放射授受の計算法についてはB.Gebhart,P.O.Fangerなどがすでに定式化している.さらに,坂本は加熱面のある模型室内に対して気流流動と放射授受を組み合わせた計算を行っており,平松・貝塚は二次元暖房室内のベクトル放射温度や作用温度の分布の計算をも示している.本論文は,室内熱環境の数値予測法を確立するための研究の一環として,特に放射授受による熱環境の分布のみに着目し,壁面温度・ベクトル放射温度・平均放射温度・PMVなどの算法を定式化し,床暖房または強制対流暖房を想定した室内に適用し,両暖房方式の特性の一面が把握できることを示すものである.二次元室内を対象とした平松・貝塚では,気流流動と放射授受の計算を組み合わせ,気温や対流熱伝達率の分布をも未知量として数値予測を行ったが,本報では放射授受の計算法を吟味するために気流流動の計算は組み込まず,気温と気流は一様なものと仮定し,対流熱伝達率は既知なものとして適切な値を用いた.このような計算法は,基本的にはP.O.Fangerがすでに示したものと同様である.異なる点は,気流計算と組み合わせることを考慮して室内表面を細かく分割したこと,放射場の方向性を表す中村によるベクトル放射温度を計算したこと,人体の形態係数を微小立方体の形態係数から近似する中村の方法を用いたこと,射度(radiosity)の代わりにB.Gebhartの吸収係数を用いたこと,形態係数の計算に山崎による優れた算法を用いたこと,などである.なお,本論文の一部は筆者らによって,参考文献8),9),10),11)にすでに報告したものであることを付記する.