著者
赤塚 俊治
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku fukushi university (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.17-34, 2017-03-17

本研究ではカンボジア王国(Kingdom of Cambodia ; 以下カンボジアと略す)の都市部と農村部で生活している高齢者を研究調査対象者として,アンケート調査を実施した。調査では,高齢者の生活実態調査結果の分析から,高齢者が抱えている生活に関する問題点や課題を明らかにした。しかし,カンボジアでは社会福祉分野が未開発であるために,高齢者福祉に関する法整備は皆無状態にある。高齢者の生活に関する問題点や課題を解決する方策としては,社会福祉システムを確立させ,社会福祉制度の整備や専門機関の設立に伴う専門職の人材育成・養成は不可欠であることが調査結果から示唆された。今後,カンボジアの高齢化率は,年々,上昇することが統計分析から推測される。それゆえにカンボジア政府は中長期的国家戦略として,高齢者福祉はもとより社会福祉分野の開発に取り組み,社会福祉分野の法整備を推進することが急務である。カンボジアはポル・ポト政権(1975-1979)の崩壊から約 40 年の歳月が経過したが,高齢者にとっては「暗黒の時代」を経験したことで,現在でも社会的・経済的・心身機能面において高齢者の生活に大きな影響を与えていることが調査結果から示唆された。カンボジアは国家再建の途上にあるが,国家再建の課題の一つとして,高齢者の生活環境を安定させ,積極的な社会福祉施策を展開することが求められる。そのことは高齢者のみならず国民生活の安定化を図る社会的機能を果たすことにもなる。なお,本研究は,科学研究費補助金を受け,研究課題である「カンボジアの社会福祉システムの現状と課題-高齢者の生活実態調査からの一考察-」の研究を実施している。