著者
遠藤 佳那子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.78-63, 2013-10-01

明治三十年代頃まで、日本語の文法研究では<命令形>を含めた六活用形を立てる立場は少数であった。本稿では、本居宣長、富士谷成章、本居春庭、鈴木朖、東条義門、富樫広蔭、鈴木重胤など、明治期の日本語の活用研究に影響を与えた近世後期テニヲハ論と活用研究における<命令形>に関する言説を辿り、なぜ活用表に加えられなかったのか、その背景を考察した。<命令形>の語形には、大別すれば(1)エ段音語尾をとるものと(2)語尾「よ」を伴う形式の二種類ある。宣長・成章頃までは両者を<テニヲハ>として論じることもあったが、春庭の活用研究によって、(1)は用言、(2)の語尾「よ」は切り離して<テニヲハ>に位置づけられた。このため、<命令形>は用言と<テニヲハ>両方の領域に跨ってしまい、活用表に入れることが出来ず、用言の一用法として活用表の外に記述され続ける。特に「国学風文典」において<命令形>の定着が遅れたのは、このような背景があったためと考えられる。
著者
遠藤 佳那子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.67-52, 2016 (Released:2017-03-03)
参考文献数
12

本稿は、未発表資料である黒川真頼の草稿「語学雑図」を紹介するものである。当該資料はおもに用言やテニヲハの活用表からなり、これによって、用言の活用研究とテニヲハ類の研究が連動して行われていたことなど、真頼の構想過程をうかがい知ることができる。また本稿では、術語「終止言」の使用と、「良行四段一格」の配置を手がかりにして、当該資料の成立時期が明治四年頃までであると推定した。こうしたことから、文部省編輯寮『語彙別記』『語彙活語指掌』の編纂に際して、真頼の文法学説が重要な位置を占めていたことが示唆された。