著者
都築 啓晃 西島 孝則 岡村 勝正 尾山 廣
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【目的】 ワサビノキ ( Moringa oleifera ) は主にモリンガと称され、インド北西のヒマラヤ山麗を原産地として熱帯地方で栽培される。日本ではスーパーフードとして栄養価について注目されることが多いが、原産地においても、葉・花・莢・種子・根などが伝統医学であるアーユルヴェーダとして利用されてきた歴史がある。しかしその一方で、薬効に関しての科学的検証は未だ限られており、今後の研究の蓄積が望まれている。そこで本研究では、ワサビノキの新規機能解明の一環として、その種子抽出物における各種評価試験を実施した。【方法】1. ワサビノキ種子をグリセリン溶液にて抽出した2. ラット肝ホモジネートを用いて、5α-リダクターゼ反応に対する阻害試験を行った3. テストステロン処置したLNCaP細胞の増殖に対する抑制作用を評価した4. 上記処置におけるprostate-specific antigenのmRNAを定量解析した5. 汚泥水 (OD600=1.5) に対する濁水浄化活性の検討を行った【結果】 ワサビノキ種子抽出物に5α-リダクターゼ反応の阻害作用をはじめ、各種の男性ホルモン活性に対する阻害作用が確認された。さらに、同素材には濁水浄化作用も観察された。【考察】 テストステロンは5α-リダクターゼによってディハイドロテストステロンに変換され、より強力な受容体リガンドとして作用する。この一連の作用機構は筋肉や骨の形成においては不可欠とされているが、その一方、過剰な男性ホルモンの活性は前立腺肥大症や若年性脱毛症の要因となることが懸念されている。今回、我々が見出したワサビノキ種子抽出物の抗アンドロゲン作用は、上記のような症例に対する対症療法の一つとなる可能性を示唆した。また近年、機能性の化学物質を高配合した洗剤・シャンプー剤などに起因する生活排水が水質汚濁を招き、環境負荷を高めているとの疑念があるが、このようなケースにおいても、水質浄化作用を備えた天然由来資源を製品開発へと利用することで、製品の消費プロセスにおける持続可能な環境負荷軽減に貢献できると考えられる。