著者
野林 正路
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.13-29, 2002-01-01

隣接科学の一部に「単一の標準特性では対象を確定指定できない」とする見方がある。語は,その使用者たちが他の選択可能性を排して標準化した対象の特性(の束)を語義に引きつけている。したがって類語による対象指示は,「家族的類似性の網目」状の錯綜を示す。この錯綜が語彙論の未開,広くはコミュニケーションにおける共約可能性の壁になってきた。だがこの稿では,その錯綜が,実は,秩序であることを論証する。具体的には(まえかけ)類を例に,話者たちの語の指示用法を行列に描き,「網目」の秩序が類義の2語(視点)の交差・複合で編成された中間分節構造,「複用語彙」の反復でつくられている事実を明らかにする。この形式は基本的には,対象を4種の論理的に可能,必然の「意味の野」に確定指定する働きをもつ。本稿では,話者たちがこの形式を用いて伝達系・モノ離れの実用言語を,認識系・モノ絡み,世界像構成の連関言語に還元(逆も)し,開放している事実を考証した。