著者
大竹 博之 河野 正司 松山 剛士 土田 幸弘 荒井 良明 金田 恒
出版者
日本顎口腔機能学会
雑誌
日本顎口腔機能学会雑誌 (ISSN:13409085)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.131-138, 1997-01-30
被引用文献数
7

咀嚼運動や下顎のタッピング運動時には, 下顎運動に協調して, 下顎と同一の周期を示す頭部運動が存在している.その中でタッピング運動に観察される頭部運動は, 開口時には上方へ, 閉口時には下方へと相対する運動方向を示し, その垂直的運動量は開口量の約10%であることが報告されている.一方, 顎機能障害症例においては, 種々の下顎運動の障害が存在することから, 下顎の運動に附随した頭部運動が存在しているか否か大いに興味があるが, いまだその報告はない.そこで著者らは, 顎機能障害症例の行う習慣的タッピング運動時に, 下顎運動と協調した頭部の周期的な運動の存在の可否を検索し, 正常者の頭部運動と比較することとした.習慣的タッピング運動の測定に際しては, 頭部固定装置やヘッドレストを一切用いず, 頭部を拘束することなく行った.また, 顎機能障害症例の行うタッピング運動は開口量および頻度の指示を一切行わず, 「リズミカルに開閉口運動を行って下さい」と指示し, 被験者が楽に行えるものとした.その測定結果において, 正常者では見られなかった頭部の運動様相が観察された.その運動について上下成分を時系列描記して, その波形を単峰性, 多峰性, 無峰性に分類し, それぞれの出現率を求めた.その結果, 1.顎機能障害症例における頭部運動は, 下顎との協調性を示す単峰性の運動が79%を示し, その他は多峰性あるいは無峰性を示し, 正常者とは異なった.2.臨床検査に見られる痛みに関する症状と頭部運動の出現率の低下には関連がみられた.3.正常者に比較して顎機能障害症例では, 頭部運動の出現率が低いことから, 頭部運動は下顎の機能運動を円滑に遂行するための随伴運動であると考えられる.以上の結果より, タッピング運動時の頭部運動様相は顎機能障害症例と正常者で異なり, 頭部運動が下顎の機能運動に協調した運動であることが確認できた.