著者
酒井 真次 長沢 次男 橋本 綱二
出版者
[農林省東北農業試験場]
雑誌
東北農業試験場研究報告 (ISSN:04957318)
巻号頁・発行日
no.81, pp.p41-49, 1990-03

ダイズシストセンチュウに対する高度抵抗性品種の早期作出を目標として,寒冷地の大豆育種ではこれまでほとんど試みられなかった年3回の世代促進育種方法を開発するとともに,世代促進中における抵抗性検定の実施,実用品種の戻し交配等を組合せることによって抵抗性育種の効率化を図った。1)世代促進育種試験に利用した温室は自動短日処理装置とオイルヒーターを備えただけの簡易な施設である。2)世代促進育種法は面積が限られた施設内で多数個体を供試して実施するために,密植条件(1m2当り417個体)で行った。3)1年を第1期(2月~5月),第2期(6~9月),第3期(9~12月)の3生育期間に区分し,1世代の生育日数を90日に制御することによって,1年に3世代を生育させることを試みた。4)成熟期群が極早~極晩の7品種を供試して生育初期に短日処理した場合の生育日数に及ぼす影響を調査した。この結果,生育日数を目標の90日以内にとどめるためには,日長が最大となる第2期の短日処理が重要であること,中生~中生の晩の育成材料では2週間以上,晩生の育成材料では4週間以上の短日処理が必要であることが明らかになった。5)短日処理区における供試品種平均の個体当り採種粒数は,第2期で4.6粒,第3期でも3.1粒であり,無処理区との間に差異が認められなかったことから,等量採種法を採用することによって育種材料の偏りを避けて育種を行うことが可能であることを実証した。6)ダイズシストセンチュウに対する抵抗性検定は,従来夏季に行っていたが,冬季にも世代促進を行いつつ検定できることが実証できた。また,抵抗性検定は密植栽培でも可能なことから,ペーパーポットに栽植したF2又はF3の集団にも適用でき,抵抗性個体の早期選抜が可能となった。7)確立した世代促進法を用いて選抜した高度抵抗性系統に実用品種を戻し交配し,更に世代促進法を繰り返して,成熟期,主茎長及び収量性等の実用形質が東北地方の基幹品種並みの系統を,短期間に育成することができた。