著者
関口 幸恵
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.169-176, 2015 (Released:2015-11-03)
参考文献数
23
被引用文献数
1

近年,臨床分野や医薬品製造,食品製造分野での微生物検査において,MALDI-TOF(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization-Time of Flight;マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型)の質量分析計を用いた手法が新たな微生物同定法として使用されつつある.本技術では,微生物菌体そのものを測定対象とし,タンパク質由来のピークが見られる約2,000~20,000 Daの範囲のスペクトルを用いて微生物同定を行う.他の微生物同定法と比較して,本技術では一検体あたりのコストが安価であり,操作が簡便で,コロニーを得てから同定結果までの時間が非常に短い.また,本技術による同定結果は,生化学的手法と比較して,遺伝子学的手法による同定結果との一致率が高いことも特長である.一方で,本技術では培地上に発育したコロニーそのものを測定対象とするため,同一菌種での菌株間の差や培養条件の差が同定結果に影響を及ぼしやすい.また,市販の装置によってデータベースやアルゴリズムが異なっており,同定菌名を導くプロセスは同一ではない.これらの点は,通常の同定試験を行う場合やデータベースに菌種あるいは菌株情報を追加する場合,さらに同定試験以外への応用を行う場合には,十分な注意が必要である.本技術においても,他の技術同様,長所と注意点を理解した上で,適切に使用および応用検討することが重要である.