著者
青木 寿篤
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-05-17

2011年に起きた東日本大震災の津波の影響によって、約30万戸の建物が被害を受け、約1万6000人の死者を出した。今日、このような津波の被害を食い止めるために通常よりも大きい“巨大防潮堤”の建設が進んでいる。人々の命を守る上ではこの防潮堤はとても重要な役割を果たすが、とても高い防潮堤を建設することによって、景観が阻害され、観光業を財源としている自治体にとっては大きなダメージを負ってしまう。この2つの問題を解決するために、私の研究は「高さを変えずに従来の防潮堤での強化」するため、「堀」を防潮堤に組み合わせることを考えた。堀というアイデアは、宮城県の被災地を訪れた際、被災された方から「元々の波は高かったけれども、目の前に川があったおかげで波の威力が弱まった」という話を聞き、そこで私は、「川のようなものを防潮堤の後ろに取り付ければ、波の威力を軽減できるかもしれない」と考えた。水槽(約1.2m)と発泡スチロールでモデルを作り模擬的に波を発生させ、波の高さと到達距離を測定し、堀の奥行きを対照区として実験を行った。波の高さを定量化し、再現性を高めるために、波の起こすための水量を一定化させ、実験を行った。はじめに、どの程度の奥行が効果的であるのかを調査するために、奥行を3段階(0,5,10,15cm)にわけそれぞれ5回ずつ波の高さと到達の有無(波が水槽の端に届いた回数)を計測した。結果、どの程度の奥行が効果的であるかは不明であったが、堀がない場合よりも堀がある場合のほうが波の到達距離を軽減できることが分かった。次に、データ数の増加を図り堀の奥行を5cmに絞って48回実験を行った。今度は、到達距離を数値化しより細かくデータを採取した。その結果を用いて散布図(横軸が波の高さ、縦軸が到達距離)を作成し、近似直線を描いた(y=1.9592x-33.27 相関係数は0.73)。この数式を、実物大に拡張し、防潮堤の高さ5m、堀の奥行2mに固定して計算した。すると、堀がないとき6mの波に対して10m以上到達してしまう(最初の実験の堀無のデータを用いた)に対し、堀があると10mの波が押し寄せたとしても、5.3mの到達距離で済むという結果が得られた。しかしながらこの実験にはいくつかの問題点があり、1つ目は津波本来の波長は数㎞から数百㎞に対し、研究装置が2mに満たないためこの結果が津波に対して有効であるかは疑問が残る。さらに、この実験には変数がとても多い(堤防の傾斜、高さ、堀の奥行、深さ、波の高さなど)ので条件を変えた時の変化は予想が難しい今後の展望として、この実験をパソコン内で再現し、より多くの条件のもとでシミュレーションを行うことを考えている。