著者
韓 瑩
出版者
日本映像学会
雑誌
映像学 (ISSN:02860279)
巻号頁・発行日
vol.110, pp.19-37, 2023-08-25 (Released:2023-09-25)
参考文献数
41

韓国映画『赤いマフラー』(申相玉、1964年)は1964年第11回アジア映画祭で監督賞、編集賞、主演男優賞を受賞し、ほぼアジア全域で大ヒットを飛ばした。本稿は、この現象に焦点を当てながら、トランスナショナルな視点から『赤いマフラー』の創出のあり方と海外進出のありようを明らかにすることを目的とする。第1節では、監督である申相玉のフィルモグラフィーとアジア映画祭における相互交渉を見ることにより、本作が、申相玉のそれまでの作品の特徴を生かしつつ、アジア映画祭で形成したネットワークを積極的に利用した成果であったことを明らかにする。第2節では、映像分析を行い、とくに視点、物語の構造および西洋的な空間の再創造に焦点を当て、本作が戦争スペクタクルを構築するさまを考察する。第3節では、アジア地域での流通と受容を検討した上で、本作の成功の理由が、映画技術だけでなく、人情味や愛という要素を映画に入れることで、戦争映画というジャンルに新しい風を吹き込んだ点にあったことを解明する。また、本作に反映された韓国の現実と反共主義の価値観に対するアジア地域の認識の違いが、「自由アジア」の亀裂を示唆していることを論じる。以上の考察を踏まえ、韓国映画の構築における、ナショナル・シネマとしての韓国映画という枠組みに包摂されないトランスナショナルな要素の重要性と、それを論じる際の注意点を指摘する。