著者
韓 静妍
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.47-62, 2010-10-01

日本語における非情の受身は、状況描写の場面に用いられる状態性の表現という限られた用法を除いては、西洋語の翻訳文体の影響により近代以降本格的に発達したものと云われているが、近代以降の非情の受身の発達様相についての具体的な検証はまだ行われていないようである。本稿では、近代以降の文学作品における受身用例を年代別に観察することによって、時代による非情の受身の発達様相を明らかにすることを目標とし、状態を表す非情の受身から出来事を表す非情の受身への拡張、抽象名詞を主語とする受身の発達などの様相を年代ごとに示す。また、翻訳文体の影響を検証するために、近代初期の翻訳文献における受身用例を観察し、それらの日本語の受身体系への影響力について確認する。最後に、近代以降非情の受身が発達した日本語内部の動因として、自動詞的対応項という受身の役割について検討する。