著者
高坂 麻子
出版者
奈良大学大学院
雑誌
奈良大学大学院研究年報 (ISSN:13420453)
巻号頁・発行日
no.8, pp.47-51, 2003-03

楽器は人間が音楽を創始した古代から様々に展開しつつ、現在に至るまで私達の生活の一部として身近な道具である。楽器にとっての装飾は、尊いものへの献上品として、それらへの敬意が当時の美意識と技術によって具現化されたことにはじまったと考えられる。つまり楽器を装飾するという行為は、楽器を音楽のイメージとして高貴な存在への捧げものと解釈したことに端を発したのである。献上品としての楽器は目に見えない音の具象化であり、実際に演奏を目的とするよりも、飾りすなわち調度品としての性質を強くするものであった。このように楽器を献上品(音のイメージの具象化)とした場合に対し、本来的機能である音を出す実用品として多様に発展した楽器も、人々に身近なものとして愛用され、装飾された。しかしその装飾は、献上品・敬意の具現化としての装飾とは当然別の性質をもつものとなる。本稿は、道具としての楽器に施された装飾の性質について、近世後末期の大名コレクションを題材として考察する。